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秋野豊賞受賞の言葉
古澤嘉朗(広島大学大学院科目等履修生)


 この度は第9回秋野豊賞を授与して頂き誠にありがとうございます。「秋野豊ユーラシア基金」の皆様、審査委員の皆様、そして秋野先生のご家族の皆様に深く感謝致します。
 私の中学・高校時代は音楽中心の生活でしたので、筑波大学国際総合学類に入学当初は「国際情勢」に関心はあっても、特に「国際関係論」がなにを意味しているのかもわからない手探り状態の出発でした。そんな当時ではありましたが、国際総合学類の建物のことを「K棟」というのですが、K棟の入り口に「脅かされず、踊らされず、踊る」という秋野先生の言葉が刻まれている卒業生の贈呈品が飾られていたりと、秋野先生を直接には存じ上げませんが、私が「国際関係論」というものを学び始めた当初から秋野先生の名前は自然と耳に入ってくる環境でした。それからいろいろな出会い、多くの皆様の支援のもと紆余曲折を経て修士号を英国で取得し、エチオピアにおける民族間対話事業やガイアナの選挙支援等を経て今回の受賞に至りますが、不思議な縁を感じてしまいます。
 この受賞は何にも勝る「励み」であると同時に、「責任」を感じています。本賞の名を、そして過去の受賞者の皆様が築かれた本賞のよき伝統を引き継いでいけるように最善を尽くしたいと思います。


「対立から対話へ:平和構築における市民社会の役割、ミンダナオの事例より」
古澤嘉朗(広島大学大学院科目等履修生)


 本研究の目的は、市民社会の活動が活発なフィリピンのミンダナオという事例を通して、平和構築活動における市民社会の役割・活動についての考察を行うことである。ミンダナオの紛争の背景には歴史的に構築された政治的・経済的な要素が多分に含まれているといえる。では、ミンダナオでは市民社会はどのような活動を通して、どのようにこれらの要因に対処する平和構築活動を担ってきたのか。
 本研究で注目するピキットでは民族・宗教間の対立を克服して共存、協力関係を促進する努力が行なわれ、宗教、民族間の平和的な共存の兆しがみられるという報告もある。例えば、ピキットでは軍やモロ民族解放戦線(MILF)による紛争に市民が巻き込まれないようにGinapaladtakaといったムスリム・キリスト教徒・ルマッドの3者が居住する平和地域が地元リーダーらによってつくられている。なぜピキットではこのような平和的共存の兆しがみられるのか。また、どのような活動が積み重なってピキットではこのような結果につながったのか。ミンダナオで長年活動されているバート・レイソン神父は「平和についてMILFと政府の手のみに委ねていてはいけない。軍とMILFの戦闘員間のように、ミンダナオの人々の間にもみえない戦争が続いているからである」とおっしゃられているが、上述の一連の問いに答える上で「みえない戦争(unseen wars)」という言葉が鍵になる。これらの点を踏まえた上で、本研究では地域の有力者、NGO職員、地域住民、研究者、UNDPなどの国際機関の職員から資料収集とインタビュー調査を実施する。
 上述の問いの前提であり、かつ本研究の中心概念としてマルチ・トラック・アプローチが存在するが、最後に簡単に触れておきたい。マルチ・トラック・アプローチとは、国家が国家としての責任を果たすことができない・しない「疑似国家(quasi-states)」が世界の各地に点在し、そして紛争が「大衆化」されている民衆が被害者であると同時に加害者でもあるという状況下において、「平和」を現実の政策問題として扱う際には国家レベル(トラックI)だけではなく、市民社会のレベル(トラックII)、草の根レベル(トラックIII)、そして国内政治と国際政治の相互関係(トラック間の相互作用)など多くの要素を考慮した上で、社会全体で幅広く問題に対処していく必要性があるという指摘である。つまり、「国家」という統治の形態を構築すれば「平和」が達成されるという認識ではなく、人々が異なる考えを持ちつつも平和的に共存していくためには、より多くの人々がなんらかの形で建設的な貢献をすることが大切であるという指摘であるといえる。言い換えれば和平の合意を結ぶということに象徴されるような政府にしかできないことがあるように、Adam Curleが指摘する個人レベルにおける「心境の変化(change of hearts)」に象徴されるような市民社会にしかできないこともあるということである。
このような考えのもと本研究ではミンダナオ、その中でも特にピキットにおける市民社会の活動に焦点を絞り、他のトラックとの関連性にも注目しつつ、平和構築活動において市民社会がどのような役割・活動を担うことができるのかということを考察する。それはある社会に異なる集団が存在する場合、それらの集団が共存し「平和」な社会を築くために、市民社会はどのような役割・活動を担うことができるのかという問いに対してひとつの答えを示すものである。


秋野豊賞受賞の言葉
多田透(大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程)

 このたびは幸運にも第9回秋野豊賞を授かることになり、大変光栄に存じております。
 秋野先生がタジキスタンの山間で凶弾に倒れられて間もないころ、私を大学院生として採用してくださった津守滋元ミャンマー大使から、秋野先生の思い出話を伺ったことがあり、大変印象深く記憶に残っております。その秋野先生のご遺志をこのよう
な形で受け継ぐことになり、厳粛な思いでもあります。
 秋野先生が示されたような、積極的に現場に出て調査研究に取り組む姿勢は、私の目指すところでもあり、その第一歩を踏み出す後ろ盾を頂けたことに感謝いたしております。
 しかし、私が本賞に恥じない受賞者であるかどうかは、むしろ今後の現地調査の成果次第で決まるものと存じております。受賞の喜びもほどほどに、早速現地調査計画を練っていきたいと思います。
 最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった「秋野豊ユーラシア基金」のみなさま、審査委員の諸先生方、そして秋野先生のご家族のみなさまに深く感謝申し上げます。


「複合的危機における人道支援活動の調整ーACBARとUNOCHAとの比較からー」
多田透(大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程在学中)

 
 申請者は、アフガニスタンにおける人道支援活動の調整体、アフガン救済のための機関調整体(Agency Coordinating Body For Afghan Relief: ACBAR)と国連アフガニスタン人道支援事務所(United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Assistance to Afghanistan :UNOCHA)について、2001年10月7日からの有志連合によるアフガニスタン侵攻以降の緊急支援に際する活動の比較を行いたい。なお、ACBARはNGO間の調整体であり、UNOCHAは国連人道システムの調整体である。
 人道支援活動とは、命の危機に晒された人々をいち早く救助する活動であり、人の命に直接関わる、極めて重要な活動である。その人道支援活動の要になるのが、参加アクター間の調整である。とくに近年、人道支援活動の調整を行うことの重要性はま
すます高まってきている。この重要性の高まりに伴って、人道支援活動の調整に関する学術研究も一定程度、蓄積されてきている。ただし既存の研究の対象は、国連に大きく偏っている。その一方、NGOも現実には調整において重要な役割を果たしている
ケースが少なくない。そこで本研究ではNGOによる調整の特徴を、国連による調整のそれと比較することから検討する。
 一般的に、調整が必要になるのは、参加アクター全体にとっての利益と、個々の組織の利益とが対立するからである。したがって、調整の役割も、この両者のバランスをいかに保つかにある。本研究もこの視点からACBAR とUNOCHAを比較し、これらがそうした役割を果たしたのかどうか、そしてそうした結果を生んだ理由は何なのかを明らかにする。
 既に、UNOCHAの調整については評価がなされており、その中で、2001年の危機において、調整体としての役割を十分に果たせなかったことが指摘されている。これに対し、ACBARに関しては十分な評価がなされておらず、しかも公開されている文書が少ない。そこでアフガニスタンでの現地調査を行う必要がある。アフガニスタンのカブールはACBARと、UNOCHAの業務を引き継いだ国連アフガニスタン支援ミッション(United Nations Assistance Mission for Afghanistan:UNAMA)とがあるため、現
地への訪問は、本研究にとって最も重要な調査活動になる。これにより、ACBARの活動を評価するための材料を収集し、UNOCHAとの比較を行う。
 こうした比較を通じて、両調整体の共通点、相違点が見えてくるはずである。そして、それらの点が、国連人道システムやNGOといったアクターの性質そのものからくるものなのかどうかを検討することで、NGOの役割を探りたい。


秋野豊賞受賞の言葉
中内政貴(大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程)

 第9回秋野豊賞を受賞することができ、大変嬉しく光栄に思っております。いかに現場の生きた情報に接し、それを学問的にどこまで鋭く分析できるか。そんな、言うは易く行うは難い課題に、一生取り組んでいきたいと思って参りました。しかし、思えば今まで、現地に携わる機会はあっても、通訳に頼り、肩書きにも頼りで、どこかマケドニアに溶け込むことができず、学問的な立場も確立できないままであったように思います。今回この賞の募集を知ったとき、偉大な先駆者の存在を改めて思い起こし、自分の志を確認する思いで応募させて頂きました。
 受賞を知り、嬉しさと同時に、一層の奮起を促されたと強く感じております。未熟な計画のうえ、現地の言葉にも難のある私に与えてくださったこの素晴らしい機会を最大限に生かし、何がしかの貢献を成せるよう精一杯努めていきたいと思っております。
最後になりましたが、秋野豊ユーラシア基金関係者の皆様、秋野先生のご家族の皆様に、心から感謝申し上げます。


「EU加盟コンディショナリティー効果が民族間の武力紛争予防に果たす役割
−マケドニア和平合意の締結と履行過程の調査ー」
中内政貴(大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程)


 EUは、加盟希望国に対して、民主化などの加盟条件を課すことにより改革を実施させるという影響力を有していると考えられる。そのような「EU加盟コンディショナリティー効果」が、民族間の武力紛争を予防してきたと言われることさえある。そして、2004年、2007年のEU拡大が完了した現在、次なるEU加盟を目指して改革に取り組んでいるのが、旧ユーゴスラヴィア諸国(既加盟のスロヴェニアを除く)である。しかし、旧ユーゴ諸国の加盟には、国内の民族間関係に直接影響を及ぼすような政策の実施が条件とされることもある。近い過去に民族間の武力紛争を経験した国にとって、EU加盟は、なお残る民族間の対立を乗り越えるほどの誘因になり得るのだろうか。本研究では、マケドニアの事例を用いて検証を試みる。
 マケドニアでは、2001年に少数民族アルバニア人系の武装勢力と政府の間で小規模ながら武力紛争が発生し、この結果、少数民族の地位を大幅に改善する和平合意が締結された。EUはこの和平過程で仲介を行い、さらに和平合意の完全履行をマケドニアのEU加盟条件とするなど積極的な関与を行っている。本研究では、このプロセスの中で(1)和平合意締結、(2)憲法改定、(3)アルバニア人武装組織・民族解放軍(NLA)戦闘員の恩赦、(4)地方自治体再編の四つの段階に注目し、その実現に及ぼしたEU加盟コンディショナリティーの影響を抽出し検討する。これらは、いずれも少数民族の地位を改善する際の重要なステップであり、それ故に多数派民族マケドニア人の側には強い反発が存在した。このため、(a)政府がいかなる理由、認識でこれらの政策を実施し、有権者にいかなる説明を行ったのか、(b)これへの反対派の活動はどのような論拠、広がりを持ったか、(c)EUの関与はどのような形で行われ、どの程度マケドニアのEU加盟と関連付けられたのか、といった点を主要政党関係者や欧州委員会代表部へのインタビューを通して明らかにすることで、EU加盟コンディショナリティー効果を浮き彫りにすることができると考える。この他、少数民族側がこれらの政策の実現にどのように関与し評価しているか、また世論はどのように反応したかなどをインタビューや世論調査のデータによって検証する。
 マケドニアに注目することは、これまで必ずしも中心的に扱われてこなかった、民族間の対立が先鋭化してしまった事例でEU加盟コンディショナリティー効果を位置付ける意義を持つ。また、EUが関与して締結・履行されてきた和平合意が実際に民族間関係にどのような影響を及ぼしているか、現場の声に触れることで、EU加盟コンディショナリティーの武力紛争予防の手段としての有効性をも考察したい。



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